はじめに
人生には誰にでも、避けて通れない「転機」があります。転職、結婚、子育て、病気、定年、離婚など、さまざまな出来事が私たちの人生を大きく揺さぶります。
そんなとき、どうやってその変化に向き合い、乗り越えるか。そのヒントになるのが、ナンシー・シュロスバーグ(Nancy K. Schlossberg)が提唱した転機の理論(Transition Theory)です。
この記事では、シュロスバーグ理論の基本構造と、キャリア支援や日常生活にどう活かせるかをわかりやすく解説します。
転機とは何か?
シュロスバーグがいう「転機(Transition)」とは、
人生において、これまでの生活に変化をもたらし、本人の考え方や行動に影響を与える出来事や状況のこと
これにはポジティブな出来事(昇進、結婚)もあれば、ネガティブな出来事(離職、離婚、病気)も含まれます。
重要なのは、客観的な出来事そのものではなく、それを本人がどう捉えるか(主観的な認識)が「転機」としての意味を持つという点です。
シュロスバーグの4Sモデルとは?
転機を乗り越えるためのフレームワークとして、シュロスバーグは「4Sモデル」を提唱しました。4つの「S」は次の通りです。
1. Situation(状況)
転機が起きた状況の内容や背景、タイミングなど。
- 予期していたか?突然だったか?
- 人生のどの段階で起きたのか?
- 他に同時進行の問題はあるか?
例:定年退職は予期できるが、突然のリストラは予期しづらい。
2. Self(自分)
その人自身の性格や価値観、過去の経験、自尊心、レジリエンスなど。
- 変化に対して柔軟か?
- 自分に自信を持っているか?
- 自分の強みや価値を認識しているか?
例:自己肯定感の高い人は転機をチャンスと捉えやすい。
3. Support(支援)
周囲からの支援の有無と質。家族、友人、職場、地域、専門家など。
- 誰か頼れる人はいるか?
- 感情面と実務面、両方の支援があるか?
例:家族や同僚からの理解と励ましがあるかどうかで回復力が変わる。
4. Strategies(戦略)
転機に対してどのような戦略行動をとるか。
- 問題を解決するために行動する(問題焦点型)
- 感情をコントロールする(情動焦点型)
- 視点を変えて受け入れる(意味づけ型)
例:転職活動を始める、気分転換する、経験として学びに変える、など。
なぜシュロスバーグ理論が大切なのか?
この理論が優れているのは、個人差を尊重しながら、転機への対応力を多面的に捉えていることです。
転機に直面したとき、人は「なんとかなる」と思えることが大切です。その「なんとかなる感覚=コーピング力(対処力)」を、4Sモデルを通して高めることができます。
また、キャリアコンサルティングの現場でも、クライエントがどの「S」でつまずいているのかを把握し、支援の焦点を明確にするために活用されます。
実生活での活用方法
例:中年期の転職を考えているAさん
- Situation:勤務先の経営悪化により希望退職を勧められた(予期せぬ状況)
- Self:家族の生活を守る責任感が強く、不安も大きいが行動力はある
- Support:妻は支援的、職場の人間関係は薄い
- Strategies:まずはハローワークに相談し、情報収集と自己分析を進めている
このように4Sで整理することで、Aさんの今の強みや課題が明確になり、より適切な支援や助言が可能になります。
まとめ
シュロスバーグの転機理論は、私たちが人生の変化に直面したとき、その変化にどう対応するかを考えるヒントを与えてくれます。
- 転機とは、日常や役割の変化である
- 転機への対応力は「4S(状況・自分・支援・戦略)」で構造化できる
- キャリア支援や自己理解、レジリエンス向上にも役立つ
人生は予測不能なことの連続ですが、自分の「4S」を整えることで、どんな転機も乗り越える力が養われます。
今、あなたが何かに迷っているなら、一度この理論で自分を見つめ直してみてください。新たな視点がきっと見つかるはずです。