はじめに
人生には「変わる」瞬間があります。転職や退職、結婚や出産、子育て、介護、病気など、誰もが何度か経験する大きな変化。その変化にうまく順応するための考え方として、ウィリアム・ブリッジズ(William Bridges)が提唱した「トランジション3段階理論」は、多くの人に役立つ視点を提供してくれます。
この記事では、ブリッジズの「トランジション3段階」について、理論の概要と身近な例を交えてわかりやすく解説します。
トランジションとチェンジの違い
まず押さえておきたいのは、「チェンジ(Change)」と「トランジション(Transition)」の違いです。
- チェンジ:外的な変化。例)転職、退職、結婚など目に見える出来事
- トランジション:内的な変化。変化を受け止めて、自分の中で整理し、適応していく心のプロセス
つまり、転職という出来事(チェンジ)が起きても、それをどう捉え、どう前に進むか(トランジション)は人それぞれなのです。
ブリッジズは、この心の変化のプロセスを3つの段階に分けて説明しています。
ブリッジズのトランジション3段階
1. 終焉
新しい始まりの前には、必ず「終わり」があります。この段階では、過去の習慣や役割、アイデンティティを手放す必要があります。
- 感情:喪失感、不安、混乱、怒りなど
- 必要なこと:自分にとって何が終わろうとしているのかを認識し、喪失を受け入れる
例: 長年勤めた会社を退職する時、仕事だけでなく「役職」「安定収入」「職場の仲間」といった多くのものを手放すことになります。
2. ニュートラルゾーン
「古い自分」と「新しい自分」の間で宙ぶらりんになっている移行期です。この時期は不安定ですが、自己再発見や成長のチャンスにもなります。
- 感情:混乱、不安、孤独、期待、探求
- 必要なこと:焦らず、自分と向き合いながら次のステップを模索する
例: 退職後、再就職先が決まらずに模索している期間。自由だが不安も多い。ボランティアや学び直しに挑戦する人もいる。
3. 新しい始まり
心の準備が整い、新たな価値観や目標に向かって前に進み始める段階です。
- 感情:希望、ワクワク、前向き、自信
- 必要なこと:目標を明確にし、行動を起こす。自分を励ましながら前進する
例: 自分のやりたい仕事を見つけて再就職する、新しい生活リズムに慣れる、など。
身近なトランジションの例
ケース1:子どもが独立した親の場合
- 終焉:子育てという日常の役割が終わる
- ニュートラルゾーン:空の巣症候群、何をしたら良いかわからない日々
- 新しい始まり:趣味やボランティア、地域活動に挑戦し、自分の新しい役割を見つける
ケース2:40代の転職希望者
- 終焉:前職との別れ、肩書や収入の喪失
- ニュートラルゾーン:スキルの棚卸しや再就職活動に挑戦
- 新しい始まり:新しい業界で働く、自分らしいキャリアの再構築
トランジションを乗り越えるためのヒント
- 自分の感情を否定しない
- 不安や喪失感は自然なもの。焦らずに受け止めましょう。
- 周囲とつながる
- 家族や友人、同じ経験をした人との対話は力になります。
- 小さな行動を積み重ねる
- 大きな変化でなくても、1日1つの行動で未来は変わります。
- プロに相談する
- キャリアコンサルタントなど専門家の支援を受けるのも効果的です。
まとめ
ブリッジズのトランジション理論は、人生の変化に対して「どう向き合えばいいか」を教えてくれる力強いガイドです。
- チェンジ=外側の出来事、トランジション=内面の変化のプロセス
- 終焉 → ニュートラルゾーン → 新しい始まり の3段階を経て、成長していく
- 焦らず、今の自分の段階を認識し、丁寧に進んでいくことが大切
変化は怖いものではなく、人生をより豊かにするきっかけです。今あなたがどの段階にいるとしても、前向きに歩んでいきましょう。