はじめに
これからの時代、私たちのキャリアはもはや「会社が決めるもの」ではなく、「自分で創るもの」へと変わりつつあります。そんな現代にぴったりなキャリア理論が、ダグラス・ホール(Douglas T. Hall)によって提唱されたプロティアン・キャリアです。
プロティアンとは、ギリシャ神話の海の神「プロテウス」に由来し、変幻自在で柔軟に形を変えるという意味を持ちます。この記事では、プロティアン・キャリアの本質である「アイデンティティ」と「アダプタビリティ」という2つのメタコンピテンシーを中心に、主観的キャリアと客観的キャリアの両面を踏まえて、自分らしく働き生きるヒントをお届けします。
プロティアン・キャリアとは?
キャリアの2つの視点:主観と客観
プロティアン・キャリアの特徴のひとつは、主観的キャリアと客観的キャリアの両方を重視する点です。
- 主観的キャリア:自分自身の満足感や成長、価値観に基づくキャリア観。
- 客観的キャリア:肩書き、報酬、昇進など、外から見える成果や評価。
従来のキャリア観は客観的な指標に偏っていましたが、プロティアン・キャリアでは、主観的な充実感が中心となります。そのうえで、客観的な成果も大切にするというバランスが重要です。
2つのメタコンピテンシー
ホールがプロティアン・キャリアの核としたのが、以下の2つの「メタコンピテンシー」です。
- アイデンティティ(Identity)
- 自分は何者か、どのように生きたいのかという自己認識。
- 自分の価値観や信念に基づいてキャリアの方向性を決める力。
- アダプタビリティ(Adaptability)
- 環境や状況の変化に柔軟に対応できる能力。
- 新たなスキルの習得や役割の変化を前向きに捉えられる姿勢。
特にアダプタビリティは、「適応コンピテンス」×「適応モチベーション」という2つの要素で構成されており、どちらかがゼロであっても十分に機能しません。つまり、「スキルや能力があってもやる気がない」「やる気はあるけど能力がない」といった状態では、変化にうまく対応することは難しいという考え方です。
この2つの力をバランスよく育てることが、変化の時代におけるキャリア形成の鍵となります。
プロティアン・キャリアが求められる背景
社会や働き方が大きく変化している今、以下のような理由からプロティアン・キャリアが注目されています。
- 終身雇用や年功序列の崩壊
- 転職や副業の一般化
- デジタル化によるスキルの陳腐化と再学習の必要性
これらの変化に対応するためには、組織依存ではなく、自分自身がキャリアの主体となる生き方が求められているのです。
プロティアン・キャリアを実践するには?
1. 自分の「軸」を明確にする(アイデンティティ)
自分は何を大切にして生きたいのか、自分の価値観を明確にしましょう。
- 仕事で何をしているときに充実を感じるか?
- どんな社会貢献をしていきたいのか?
- 働くことの意味とは何か?
キャリアの意思決定において、自分の信念を持つことが、ぶれない道しるべとなります。
2. 柔軟に変化に対応する(アダプタビリティ)
変化に前向きでいることが、キャリアのチャンスを広げます。
- 新しいスキルを学ぶ意欲を持つ
- 異業種・異職種への挑戦に前向きになる
- 失敗から学び、次へ活かす力を養う
社会や職場の変化を脅威ではなく、成長のチャンスと捉える視点が必要です。
3. 主観的キャリアと客観的キャリアの両立を意識する
自分が納得できるキャリア(主観)と、社会からの評価(客観)のどちらも大切です。
- 自己満足だけでは社会との接点が持てず孤立してしまうことも
- 他者からのフィードバックも柔軟に取り入れる姿勢が必要
自分軸と社会軸のバランスが、持続可能なキャリアを生み出します。
プロティアン・キャリアを生きる人たちのケース
ケース1:社内異動をきっかけにキャリア転換した50代男性
製造業から人事部へ異動。最初は戸惑いもあったが、社員支援のやりがいを感じ、キャリアコンサルタント資格も取得。自分の価値観に沿った働き方を実現。
ケース2:子育てを経て再就職した40代女性
出産退職後、子育てを経てパートからスタート。学び直しを重ねて正社員として復職。家族との両立を重視した働き方を実現。
まとめ
プロティアン・キャリアは、自分らしいキャリアを自らの手で創るための考え方です。
- 「アイデンティティ」と「アダプタビリティ」の2つのメタコンピテンシーが軸
- アダプタビリティは「適応コンピテンス × 適応モチベーション」で成り立つ
- 主観的キャリア(内的満足)と客観的キャリア(外的評価)の両立が重要
- 自分でキャリアを選び取り、変化に柔軟に対応する生き方
「こうあるべき」から「どうありたいか」へ。
変化の時代だからこそ、自分の価値観に正直に、自分らしく歩むキャリアを築いていきましょう。