アン・ロー理論の欲求理論的手法を簡単に解説

キャリア形成

はじめに

「人はなぜその職業を選ぶのか?」

この問いに対して、心理学的な視点から明快な理論を提示したのが、アン・ロー(Anne Roe)です。彼女は、職業選択には個人の性格と欲求のパターンが深く関係していると考え、心理学的アプローチからキャリア理論を発展させました。

本記事では、アン・ローの理論をわかりやすく解説し、キャリア支援や自己理解にどう活かせるかをご紹介します。


アン・ローの理論とは?

アン・ローの理論は、心理学者マズローの欲求階層説に影響を受けたものです。彼女は、「子ども時代の親との関係や養育環境が性格に影響を与え、その性格が職業選択に反映される」と考えました。

つまり、「どんな家庭で育ち、どんな感情体験をしたか」が、将来の職業志向に影響するとしたのです。


職業選択と欲求理論の関係

ローは、職業を選ぶ際に人がもっている「欲求の充足の仕方」に注目しました。

● 欲求の充足レベルによる分類

欲求が満たされていない人は、内向的になりがちで、対人関係を避ける傾向がある。

一方、欲求が十分に満たされた人は、社交的で人と関わることに積極的になります。

これにより、以下のような職業選択の傾向が生まれると考えました。

  • 欲求が満たされている人 → 人と関わる職業(対人志向)
  • 欲求が満たされていない人 → モノやデータと関わる職業(非対人志向)

養育スタイルと職業選択

アン・ローは、子ども時代の親の養育スタイルを3タイプに分類しています。

  1. 情緒型:過干渉、過保護、過剰な期待など
  2. 回避型:無関心、冷淡、拒否的な態度
  3. 受容型:愛情を持って支え、適度な自立を促す

これらの養育スタイルが子どもの性格形成に影響し、職業選択にもつながるとされています。

例えば:

  • 情緒的集中型 → 内向的・慎重な性格になりやすく、技術職や研究職に向かう
  • 受容型 → 社交的・外向的な性格になりやすく、対人援助職や教育職に向かう

職業分類(アン・ローの8分野6水準)

ローは、職業を関心分野と責任レベルの2軸で分類しました。

● 関心分野(8分野)

  1. サービス(福祉・教育・介護など)
  2. ビジネス(営業・販売・管理など)
  3. 組織(官公庁・大企業の管理など)
  4. 技術(工学・製造・生産など)
  5. 屋外活動(農業・建設・運輸など)
  6. 科学的研究(研究・分析など)
  7. 芸術(デザイン・音楽・美術など)
  8. 一般文化(学芸員・編集・文化系職種など)

● 職業レベル(6水準)

  • 専門職・管理職
  • 技術職・準専門職
  • 事務職・販売職
  • 熟練作業職
  • 半熟練作業職
  • 単純作業職

これにより、職業を8分野×6水準のマトリクスで構成し、個人の興味や性格に合った職業を整理することができます。


キャリア支援への活用方法

アン・ローの理論は、キャリアカウンセリングや職業指導の現場で次のように活用できます。

1. クライエントの育成環境を理解する

子どものころの家庭環境がどのようであったかを確認することで、クライエントの性格傾向や職業志向の背景が見えてきます。

2. 対人志向か非対人志向かを見極める

「人と関わる仕事を好むのか?避けるのか?」という視点から、適職の方向性を探ることができます。

3. 職業選択の背景にある動機を掘り下げる

職業の選び方に潜む、欲求の充足の仕方や心理的な動機を整理することが、自己理解と納得のいく選択につながります。


現代社会におけるアン・ロー理論の意義

現在のキャリア形成では、多様な価値観や働き方が存在します。その中で、アン・ロー理論のような心理学的アプローチは、単なる能力マッチング以上に、個人の内面や人生経験に寄り添った支援を可能にします。

また、就職だけでなく、転職や再就職、セカンドキャリアの選択など、人生のあらゆる場面で「なぜ自分はこの道を選ぶのか?」を考える助けになります。


まとめ

アン・ローの欲求理論的アプローチは、職業選択を心理的欲求と養育環境の視点から理解するユニークな理論です。

  • 欲求の充足と性格の関係から職業選択を考える
  • 対人志向/非対人志向によって職業傾向を見極める
  • 養育スタイルとキャリアの関係に注目する

自分の過去や性格、興味のルーツに向き合うことで、「本当に自分に合った職業とは何か」が見えてくるかもしれません。

 

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