はじめに
日本の職場では近年、「治療と仕事の両立」が重要なテーマとなっています。厚生労働省の調査によると、がんや糖尿病などの慢性疾患を抱えながら働く人は増加しており、それに伴い企業側の対応も求められています。キャリアコンサルタントにとっても、この分野の理解と支援は欠かせないものとなっています。本記事では、病気を抱える労働者が安心して働き続けられる環境づくりと、支援のために必要な知識や手法について、わかりやすく解説していきます。
治療と仕事の両立が求められる背景
かつては、病気の治療が必要になれば離職せざるを得ない状況が一般的でした。しかし、医療の進歩により長期的な通院や服薬によって働き続けられるケースが増え、病気と仕事を同時に続ける「両立支援」の必要性が高まっています。
特に増えているのが、がん・うつ病・生活習慣病などの長期療養を要する病気です。これらは一定の治療を続けながら、日常生活や仕事を続けられるものが多く、職場での配慮があれば就業継続も可能です。したがって、職場環境の整備と個別対応が重要になっているのです。
キャリアコンサルタントの支援の役割
キャリアコンサルタントは、相談者の就業継続に向けた意思決定をサポートする立場にあります。以下のような観点が求められます。
1. 本人の意思の確認
病気と向き合いながらも「働きたい」と考えるクライエントの気持ちに寄り添い、本人の希望や不安を丁寧に聴き取る姿勢が大切です。無理に就業を続けさせるのではなく、意思を尊重した上で支援策を共に考えます。
2. 職場との調整支援
治療のスケジュールに合わせて、勤務時間や業務内容を柔軟に調整する必要があります。たとえば「通院のための時間休取得」「在宅勤務の導入」など、制度や職場文化に応じた提案が可能です。
3. 医療機関との連携
主治医の診断や指示を理解し、それを職場の支援にどう反映させるかも重要な課題です。本人が伝えにくい内容について、産業医や両立支援コーディネーターとの連携が有効です。
企業が導入している支援制度の例
多くの企業では、治療と仕事の両立を実現するために以下のような制度を整備しています。
- 短時間勤務制度:治療や体力の都合で通常勤務が難しい人のために、労働時間を短縮する制度。
- 時間単位の有給休暇:通院などに対応できるよう、時間単位で有給休暇を取得できる制度。
- 在宅勤務制度:体調を考慮し、自宅での勤務を許可する制度。
- 両立支援窓口の設置:人事部門や産業保健スタッフが個別相談を受ける体制づくり。
こうした制度の周知と運用が、安心して働ける環境づくりに繋がります。
現場で役立つ支援のヒント
支援の基本は「傾聴」
病気による不安や焦りを抱えるクライエントに対しては、何よりも「話を聞く姿勢」が求められます。評価やアドバイスよりも、まず「共感」から入ることが、信頼関係の構築に繋がります。
柔軟な選択肢を提示する
両立の方法は一つではありません。「完全復職」「段階的な復帰」「別の職種への異動」など、複数の選択肢を提示し、それぞれのメリット・デメリットを一緒に考えていくことが大切です。
支援者自身の知識を更新する
両立支援に関する法律や制度は変化しています。最新情報を継続的に学ぶことで、より的確なアドバイスが可能になります。両立支援コーディネーター養成研修などの活用もおすすめです。
まとめ
「病気を理由に働けない時代」は、すでに過去のものとなりつつあります。これからのキャリア支援では、「健康と仕事の両立」を前提とした視点が求められます。キャリアコンサルタントにできることは、本人の不安に寄り添い、柔軟な働き方や制度の活用を一緒に考えることです。社会の価値観が多様化する今こそ、誰もが安心して働ける環境づくりに貢献できる存在でありたいものです。