はじめに
キャリアコンサルタントとして活動する際、人の発達段階を理解しておくことは極めて重要です。特にクライエントのライフステージに応じた悩みや課題に対応するには、発達心理学の知見が大きな手助けになります。なかでも、エリクソンが提唱した「漸成的発達理論」は、人生の各時期における心理社会的な発達課題を体系的に理解するうえで非常に有効な枠組みです。本記事では、その理論の基礎と各段階の特徴、キャリア支援への活用法について解説します。
漸成的発達理論とは
エリク・H・エリクソンは、フロイトの精神分析理論をもとに、人生全体を8つの段階に分け、それぞれに「心理社会的発達課題」が存在すると主張しました。この考え方は「漸成的発達理論」と呼ばれ、前の段階で得た成果が次の段階に影響するという発達の積み重ねを前提としています。
この理論では、人生を通じて発達は続き、それぞれの段階には乗り越えるべき課題と、それにより得られる「徳」があるとされています。
8つの発達段階とキャリアの視点
以下にエリクソンの8段階と、キャリア形成との関連を簡潔に整理します。
- 乳児期(0〜2歳):基本的信頼 vs 不信
- 幼児期前半(2〜4歳):自律 vs 恥・疑惑
- 幼児期後半(5〜7歳):自発性 vs 罪悪感
- 学齢期(8〜12歳):勤勉性 vs 劣等感
- 思春期〜青年期(13〜22歳):自我同一性獲得 vs 自我同一性拡散・混乱
- 成人前期(23歳〜34歳):親密性 vs 孤独
- 成人期(35歳〜60歳):世代制(生殖性) vs 停滞
- 老年期(61歳〜):統合性 vs 絶望
これらの課題は、必ずしも年齢だけで区切られるものではなく、人生経験や環境、個人の成長速度などによっても前後する可能性があります。
キャリア形成との関係
キャリア支援の現場では、相談者が抱える課題の背景に、この発達課題のどの段階にいるかを踏まえることで、より的確な支援が可能になります。
例えば、35歳〜60歳の中高年であれば、「世代制(生殖性) vs 停滞」の段階に該当します。この段階では、次世代への貢献や社会への関与を通じて、自分の存在意義を感じることが求められます。逆に、それが実感できない場合、虚無感や無力感に陥りやすくなるのです。
同様に、23歳〜34歳でキャリアについて悩んでいる場合は「親密性 vs 孤独」の課題が背景にあることが多く、人間関係や将来の生活設計に関する支援が有効になります。
実務での活用方法
エリクソンの理論を実際のキャリア支援で活用するには、以下のような視点が有効です。
1. 発達課題の見立て
相談者の話から、現在どの発達課題に直面しているかを見極めることが重要です。例えば、「今の職場で何の貢献もできていない気がする」という言葉から、「世代制(生殖性) vs 停滞」の課題を抱えている可能性が考えられます。
2. 課題に応じた支援設計
その上で、発達課題に応じた支援を設計します。自己肯定感の育成、キャリアの再設計、人間関係の見直しなど、課題に合わせたテーマ設定が効果的です。
3. 課題の未消化にも配慮
エリクソンの理論では、前段階の課題を乗り越えられていない場合、次の課題にスムーズに進めないことがあるとされています。たとえば、「自我同一性」が確立されていない場合、「親密性」への取り組みに支障が出ることがあります。そのため、相談者のこれまでの人生歴にも目を向け、過去の課題を整理する支援も求められます。
まとめ
エリクソンの発達課題理論は、キャリアコンサルティングの現場において、相談者の心理的背景を理解するための有力なツールです。年齢や表面的な悩みだけに注目するのではなく、その背景にある発達段階を理解し、適切な支援を行うことで、より深い信頼関係と効果的なキャリア支援が実現できます。
発達課題は人生を通して変化し続けるもの。だからこそ、私たちキャリアコンサルタントも、変化を受け入れながら支援を続けていく姿勢が求められます。