はじめに
現代社会において、うつ病や不安障害、双極性障害などの精神疾患を抱える人は増加傾向にあり、働く世代でも例外ではありません。精神的な疾患は、就労や職場での人間関係に影響を及ぼすことが多く、本人だけでなく、周囲や支援者にとっても丁寧な対応が求められます。
キャリアコンサルタントには、精神疾患を抱える方の特性や状況を理解したうえで、適切な支援を行うことが求められます。本記事では、精神疾患を抱える方へのキャリアサポートの基本的な考え方や具体的な支援方法、連携のポイントについて解説します。
精神疾患のある方の就労における課題
精神疾患のある方は、以下のような課題を抱えながらキャリアを歩んでいるケースが多く見られます。
- 体調の波があり、安定して働き続けることが難しい
- 集中力や対人関係の困難さから、職場で孤立しやすい
- 自信を喪失しており、就職活動に消極的
- 病気を職場に開示すべきか悩んでいる
これらの課題を踏まえ、支援者としては“本人のペース”を大切にしながら、安心できる相談環境を整えることが第一歩となります。
キャリアサポートの3つの基本姿勢
1. 傾聴と共感をベースにした信頼関係の構築
精神的に不安定な状況にある方にとって、「否定されないこと」「受け止めてもらえること」が何よりの安心材料になります。
- 話の内容よりも“気持ち”に注目して傾聴する
- 否定やアドバイスよりも「共に悩む」姿勢を大切にする
- 相談者のペースに合わせ、沈黙も受け入れる
2. 自己理解と強みの再発見を促す
長期間の療養などにより、自信や自己肯定感が低下していることも少なくありません。
- 病気とは関係ない部分での「強み」や「成功体験」を掘り起こす
- 体調が安定している時間帯や作業内容の傾向など、就労に活かせる情報を一緒に整理する
- 「できること」「やりたいこと」「配慮が必要なこと」の3点を明確にする
3. 関係機関との連携を前提にした支援設計
キャリアコンサルタントだけで解決できる問題ではない場合も多くあります。
- 主治医やカウンセラーとの連携(必要な場合は同意を得て)
- 障害者就業・生活支援センターやハローワークとの連携
- 障害者職業センターによる職業準備支援の活用
「孤立させない支援」の視点で、制度や資源を活かした多面的なサポートを設計していくことが重要です。
実践で活用できる支援ツールや制度
障害者手帳の活用
精神障害者保健福祉手帳を取得することで、以下のような支援が受けられる場合があります。
- 就労移行支援事業所の利用
- 障害者雇用枠での就職活動
- 職場における合理的配慮(業務量や勤務時間の調整など)
ただし、手帳取得には本人の意志が必要であり、「制度ありき」ではなく、「本人の納得感」を重視する必要があります。
就労移行支援事業所の活用
民間またはNPOなどが運営する福祉サービスで、
- ビジネスマナーや軽作業の訓練
- 履歴書作成や面接練習
- 就職後の定着支援 などを提供
安定した生活リズムの確立から段階的な就労支援を行うため、再スタートの拠点として有効です。
障害者職業センターの利用
職業リハビリテーションの専門機関として、
- 職業評価(適性の把握)
- 職場実習のコーディネート
- 企業と連携した職場定着支援
などを担っています。客観的なアセスメントを行いながら、よりマッチした職場選びを支援します。
支援時に気をつけるポイント
- ゴールを急がない:「とりあえず働く」よりも「安心して働き続けられる」ことを優先
- 体調変化に応じて対応を見直す:月単位、週単位で変化がある場合もあるため、柔軟な支援計画が必要
- 家族や支援者と連携する:生活面の安定と就労は密接に関係しているため、家庭や地域とのつながりも重視
まとめ
精神疾患を抱える方へのキャリア支援は、一律の対応では成り立ちません。「本人にとって安心できる場」「自分の可能性を再発見できる関わり」「無理をしない働き方」の3点を意識しながら、長期的視点での伴走支援が求められます。
キャリアコンサルタントにとっては、制度や資源の知識だけでなく、「人としての関わり方」が問われる支援分野です。支援者自身も孤立せず、チームやネットワークを活用して取り組むことが、継続的かつ質の高い支援につながります。